ZEH(ゼッチ)に対する考え方

ZEH(ゼッチ)を知る

ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略です。

従来の省エネ基準よりも断熱性能の良い建物を造った上で、高効率な冷暖房・換気設備、給湯設備や照明器具などを使い2割以上のエネルギーを削減。さらに残りを太陽光などで創エネして100%エネルギー自立を目的としたのがZEHです。

ZEH(ゼッチ)の定義

ZEHとは「外皮の高性能化及び高効率な省エネルギー設備を備え、再生可能エネルギーにより年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの住宅」と定義されています。
では、どのような条件を満たせばZEHと言えるのか、その中身を見ていきましょう。

point 01
住宅の外皮性能は地域区分ごとに以下のUA値を満たすこと。
point 02
再生可能エネルギー(太陽光発電等)を除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上削減すること。
point 03
再生可能エネルギーを導入し、基準一次エネルギー消費量から100%以上削減すること。

以上の定義をクリアすると、国から一戸あたり125万円(平成28年度)の補助金が交付されます。

ZEH(ゼッチ)基準の難易度はどうなのか

外皮性能

仙台周辺は4地域にあたり要求されるUA値は0.6です。これを実例に置き換えてみると、ある物件ではアルミ・樹脂複合サッシにLow-e複層ガラス、基礎断熱50㎜、外壁HGW(高性能グラスウール)105㎜、屋根HGW200㎜でUA=0.59という例がありました。最近ではどのビルダーでもこの程度はクリアするでしょう。
イノーバが標準とするQ=1.2クラスではUA値は0.43前後になります。これは盛岡などの3地域(UA≦0.5)も大幅にクリアする性能であり、外皮性能面に関しては特別考慮することは無いと言えます。

基準一次エネルギー消費量から20%の削減

WEBプログラム上でUA=0.43の家にヒートポンプ式セントラル暖房、ダクト式第1種熱交換換気、エコキュート、それに全室LED照明を選択すると一次エネルギー消費量の合計値が算出されます。その数値をZEH申請実施計画書に入力すると削減率は31%と表示されました。この時点で20%はクリアできていますが、次に述べる太陽光発電の容量を考えると、ここはできるだけ高い数値が望まれるところです。

再生可能エネルギー自給率100%の壁

前述の実施計画書でシミュレーションすると、6.0kwの太陽光パネルを載せてなんとか「NearlyZEH」(*注1)基準をクリアできる削減率77%になりますが、「ZEH」基準の100%削減を達成するにはなんと9.0kw(101%)を載せることが必要です。ここを達成しなければ125万円の補助金は得ることができないのです。これでは現実的ではないと言わざるを得ません。多くの太陽光パネルを載せるために大きな片流れ屋根が必須となり敷地の制約上、無理なケースがたくさん出てくることでしょう。建物をデザインする上でも大きな「足かせ」をはめられることになります。

では、どうしてこのような非現実的な基準値が設定されたのでしょうか?

*注1:「Nearly ZEH」住宅性能や設備の面ではZEH仕様に準拠できているが、様々な理由で再生可能エネルギーでは住宅で使用する電力を賄えず、1次エネルギー収支がゼロにならない住宅の事。都心狭小地等の土地面積・延床面積・日照時間や屋根面積が限られている住宅が対象。

エネルギー消費量計算の問題点

WEB上のプログラム「エネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)」では居室の床面積を入力する欄があります。この居室の床面積が大きいほどエネルギー消費量が多い住宅と判断されるようにプログラムが出来ているのです。「主たる居室(リビング)」がより小さければその部屋は消費エネルギーが少ないと判定されます。

ところが全室等温の快適な住宅造りにおいては部屋間を細かく仕切ることはしないことが多いのです。リビングと廊下の境もないほうが良いし、吹抜けを介して階段から2階のホールまで1室というのも珍しくありません。こちらのほうが少ない熱量で家の中全体を温めるのに有利だからです。
この場合、プログラムに入力する上では廊下も含めオープンな空間は全て「主たる居室」とせざるを得ません。高性能な器であるかどうかなど関係なしにエネルギーを大量に消費する家と判定されてしまうわけです。

かくしてイノーバの「可変住空間の全室等温で快適な家」は9.0kwもの太陽光発電システムが必要な家となってしまうことになるのです。ZEHのルールとはいえ、あまりに理不尽だとは思いませんか?

AEH(ゼッチ)は正義なのか

地球規模での省エネ化の中、住宅のエネルギー自立を掲げZEHの普及を目指す国の施策は大筋で賛同できるものです。しかし、いざ実務レベルになると「これは・・ちょっと違うんじゃないの?」ということがあちこちに出てくるようです。2030年までに新築戸建て住宅の過半数をZEH化するという目標を達成するために、国としては中小の工務店よりもボリュームが期待できる大手のハウスメーカー・ビルダーにより大きな期待をかけ、また空調機器メーカーを含めた「企業」の意見を重要視した上で策定された今回の基準なのだと思います。

例えば外皮性能の要求値が特に4地域以南で低すぎること。技術的にUA≦0.5は付加断熱なしでも十分クリアできる数字なのです。この部分をなおざりにするとエアコンや太陽光の比重がより高まってしまいます。 そのエアコンですが、今回のプログラムにおいては冷房においても暖房においても評価が高くなる傾向です。小さな部屋に個別にエアコンを設置して間欠運転する、これが一番消費エネルギーが少ないと判定されているのです。イノーバの主流である床下温水パネル暖房(連続運転)など、選択肢もないくらいですから。家電メーカーの思惑が透けて見えます。

イノーバはZEHの思想には賛成です。ただし大切なのはその家に住む人が「ほんもの」の快適な生活を享受できることです。ZEHの肩書きが欲しい、125万円の補助金がどうしても必要だという人は別として、マイホームを必要とする多くの人たちは広々としたリビングや家中温度差のない快適空間、それを実現した上での少ない燃費といったものを求めていると思います。

そういった意味で本当に重要なのは高性能な建物を造ることです。ZEH基準よりはるかに優れた建物に省燃費な24時間連続運転暖房を設置することで「ほんもの」の快適な暮らしを提供できる。温度差のない広い可変住空間は孫子の世代まで色あせることなく豊かな暮らしを楽しむことが出来るはず。わたしたちはそう考えています。